【097】 生 存 競 争
                                                                      

  数年前まで、 鳩が橋の欄干に群れていた。 街路灯は白いペンキを斑(まだら)に塗ったかのように糞で汚れていた。 朝夕にはきまってパン屑とか、 ポップコーンとか、 鳩に餌をやる人がいた。 大半は老人だった。 一人身の孤独な生活。 その淋しさを紛らわしていたのだろう。 
  鳩害で困っている住民が、 『ハトに餌を与えないでください』と橋の袂に、 たて看板を掲げた。 鳩にえさをやる老人が消え、 鳩が減少した。 
 

  カラスが急に多くなった。 カラスに餌をやるひとはいない。 それでも、 カラスは街なかの生ごみを漁っているのか、 凄まじい繁殖だった。 やがて、 都知事の号令で、 カラスの駆除が始まった。 黒い集団はかなり減ってきた。 
  川面をのぞくと、 大形の鯉がゆうぜんと泳ぐ。 30〜40匹くらいだろう。 朝方、 餌をやる人が現れた。 欄干を覗き込むだけで、 人の気配を察し、 鯉が集まるようになった。 
 

  カモメが鯉の餌を狙って干潟で待つ。 餌まきの人物が現れると、 敏捷なカモメが飛来する。 空中で、 鯉の餌を奪ってしまう。 鯉でなく、 カモメに餌をやっているかにみえる。 
  橋の歩道の通行が妨げになるほど、 カモメが集まって旋回する。 
  水中の鯉がおこぼれの餌を待つ。 なにかしら鯉が哀れに思えてくる。 生存競争の凄まじさをみる思いだ。 
  そのうち、 カモメ公害で、 餌まき人と住民の争いがはじまるだろう。
 

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