【098】 陽射しの散歩道
                                                                      

  S字型の護岸には、 治水対策で幅広の散策路ができた。 下町の情景に似合わず近代的な雰囲気だ。 広角の視界がある。 ただ総延長は一キロにも満たない。 
  十数年の歳月がたつと、 違和感も消え、 慣れ親しんだ情景になってきた。
 

  両岸に架かる橋は、 下町の裏路地に通じる。 人々は町工場や店舗から出かけてきて、 日差しを浴びる。 幅広い散策道だから、 開放感が楽しめる。
 

  秋になると、 水際に一列で並ぶ銀木犀から甘い香りが漂う。 『牛乳のような、 いい香りね』という会話が聞こえてくる。 小粒の花が咲く一枝を、 鼻先に引き寄せてみた。 香りが全身に心地よく回った。
 

  初冬の小春日和になった。 汗ばむような陽気だ。 ウインドーブレーカーを脱いだ。 ゆるやかな傾斜面は草むらで、 子どもが戯れたり、 子犬が駆けたりする。 
  気取った犬を連れた人がやってきた。 犬の種類はわからない。 下町ではまず見かけない上等の犬だ。 派手な着衣が胴体に着せられている。 
  犬は自然の毛皮を身につけている。 暖かな陽射しすらもつよく感じるだろう。 『胴体の着衣を脱がせてちょうだい』。 犬はどんな啼き声をするのだろうか。
 

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