【048】 神 頼 み |
人間ならば、 願いごとはだれにでもある。 下町の小さな神社はよく願い事をかなえてくれる。 |
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朝に神前で、 無病息災を祈れば、 きょう一日が無事に過ごせる。 交通安全を願えれば、 バイクや自転車の飛び出しに出会わない。 娘の安産を祈れば、 おぎゃあ、 と赤子の声が聞こえた。 |
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下町の神様は頼もしい。 人間ならば、 多少なりとも、 縁起をかつぐものだ。 賭け事に神様を利用するひとがいる。 きょうもあの人が神社の前にいる。 椅子を出してきて、 真剣なまなざしでスポーツ誌の競馬欄を広げている。 神社の前ならば、 予想的中。 そう信じて疑わないのだろう。 あるいは大穴が狙えるのだろうか。 人間は悲しいかな、 迷いの心がある。 神社の前で、 間違いない、 きょうはこの予想で取れる、 と確信しておきながら、 いざ馬券を買う段になると、 気が変わってしまう。 結果は外れだ。 「ああ、 神様の前で誓った、 あの通りに買えばよかった」と嘆いても、 手遅れだ。 |
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神様がバチを与えたのだ。 そう考えると、 自分を納得させられる。
自家に帰れば、 女房は横目でチラッと見て、 「いい加減に賭け事をやめたら。 損ばかりしているんでしょ」という。 しっかり見抜いている。 女はいい勘をしている。 競馬か競輪に、 その勘を使えば、 儲かるのに、 と思ってしまう。
「きょうは負けたけど、 平均したら収支はとんとんだ。 ちょっとプラスくらいかな」 |
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言い訳にも、 ちょっとミエが入ってしまう。 勘の悪さを見せたくないのだ。 「だったら、 ハンドバックの一つも買ってよ」 「来週のダービーで、 一発当てる。 そしたら、 買ってやる」 「あてにしてないわ。 あんたはいつも神頼みだからね。 神様は一人だけに味方しないのよ。 運は平等にあるんだから」 女房は痛いところをつく。 |
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