【030】 通 信 塔
  あの鉄塔はなんの電波を受信しているのか。 それとも中継なのか。 電波は見えない。 生活のまわりでは情報の渦が巻く。 見るもの、 聞くもの、 大半が電波に乗ってやってくる。 文化の進化に疎い下町でも、 それは例外ではない。 

  街なかにぬっと突き出た鋼鉄製の通信塔。 それをじっと見つめていると、 火の見櫓はどうしたのだろうか、 と思った。  江戸の大火の頃から、 火の見櫓は大切な情報の源のはずだった。 火事の方角、 逃げる場所を教えてくれる。

  ひとたび火事となれば、 櫓の上で、 飛び職人が半鐘を打ち鳴らす。 懸命に火事を知らせる。 火消しを呼び集める。 庶民も一体になって火を消す。  

  あの通信塔は何の情報を伝えてくれているのだろう。 拘泥しても、 電波は見えない。 読み取れない。 きつと大切だといわれる情報だろう。 「そうか。 火事は、 消防車のサイレンがくれるのだ」。 耳をすませていると、 消防車は遠くから来て遠くに消えてしまった。 このまま安堵しておけばいいのか。

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