【029】 小さな森の公園
 社の裏手の小さな森では、 潅木が燃えている。 紅葉の名所でもなければ、 有名でもない。 名すらも知れられていない狭い広場。 大人の足ならば、 ものの一分で通り過ぎてしまう。 
 吹き抜ける秋風が紅く色づいてきた。 枯葉が風に乗り、 静かに舞い降りる。 芝生の上で心地よさそうに横たわる。 

 少女が芝生を駆け、 鳩の群れを追い散らす。 迷惑そうな鳩がちょっと羽ばたき、 場所を移す。 幼子はケラケラ笑いながら、 鳩を追う。 
 狙われたのは白鳩。 ひょいと横飛び。 少女はなおも両手を広げて追う。 白い鳩はとうとう堪忍袋の尾が切れたのか、 高く飛び上がった。 老人がベンチに座る休憩所の屋根から見下ろしている。 

「さあ、 帰ろうね」
 母にさとされる。 
「もっと遊びたい」
「ただをこねたらだめよ。 パパが待っているでしょ。 お家で」
「会社だもの」
「そうか。 会社だね。 ママは勘違いしていた。 鳩さんがバイバイだって」
「鳩さんともっと遊びたい」
「嫌だといって、 降りてこないでしょ。 屋根の上から。 わかった?」
「何か買ってくれる?」
「おりこうだったらね。 行きましょ」
 母に手を引かれて、 幼子は家路に向かう。   幼い子の目には大きな森の広場にみえるだろう。 大人になれば、 母に連れられてきた遊び場がこんなも狭い公園だったのか、 とおどろくはずだ。 それでも、 大きな思い出には違いない。

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