【028】 川  舟
  徳川時代は、 江戸城下の深川界隈が都市の中心だった。 川や堀などの水路が発達していた。 物資の運搬のみならず、 川遊びが流行していた。 武士や豪商が川舟で、 芸者が弾く三味線、 都都逸(どどいつ)などを聴きながら、 酒を飲む。 風流な遊びの一つだった。 

  東京湾の沿岸は漁業や海苔の養殖が盛んだった。 明治、 大正と引き継がれてきた。 しかし、 昭和の高度成長期になると、 漁業は職業としては消えていった。 

  伝統の舟遊びが消えたわけではない。 
  春は隅田川の桜見物だ。 花吹雪が川面を薄紅色に染める。 春風で無数の花弁が波打つ。 対岸の日本堤には大勢の人出をみる。 こちらは滝廉太郎作曲の歌を口ずさむ。 

  初夏には浦安沖のはぜ釣りだ。 船頭が穴場を教えてくれる。 釣れる、 釣れる。 つりの腕自慢の一つもしたくなる。 
  夏は両国の花火だ。 多摩川、 江戸川、 中川、 荒川の川舟の溜まり場から、 川舟が次々と集まる。 夜空では色彩豊かな競演をくり広げる。 川舟の船頭は場所取りで忙しい。 

  納涼船は浴衣姿の男女が似合う。 半年もすれば、 コートを着た男女が手を取り合って、 板張りの桟橋をおそるおそる渡る。 屋形船に乗り込む。 忘年会の舟は出航だ。 

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