【009】 商店街はよき古を語る
 駅前には踏み切りがある。 赤い京成電車が通り過ぎると、 遮断機が開き、 買物客が左右に行き交う。 線路に分断された商店街がある。 かつては下町最大級の商店街だった。 

 実に長い距離で、 3駅続きの商店街だ。 道の両側には切れ目がなく、 店舗がならぶ。 

 アーケードから一つ外れた、 裏通りの商店街に足を向けてみる。 

 人形焼の甘く香ばしい匂いが漂う。 立ち止まって、 財布を取り出す。 いつも匂いにつられてしまう。 手造りの製造販売だ。 数十年来の馴染みの顔として憶えられている。   
 数件先では煎餅焼のおばさんが、 黙々と一枚ずつていねいにタレをつけている。 裏表をひっくり返してさらに焼く。 やがて出来上がると、 木製の陳列ケースに入れる。 家族に買って帰ることにする。 

 となりはむかし風情の食堂だ。 古い暖簾をくぐれば、 壁面にカレーライス、 親子丼などの定番メニューがならぶ。 
トッコロ天、 カキ氷、 みつマメなども売っている。 

 斜め前は、 てんぷら屋で、 後継ぎがいなくて、 『閉店』の予告札を下げる。 

「さいみしいね。 おたくもたたむのかい」 という客の声。 

「時の流れだね」 店主は覚悟を決めているのだろうが、 妙に淋しげな顔だった。 


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