【072】 や ぐ ら 太 鼓
  駅前アーケード街には、 浴衣姿の男女が歩く。 浴衣の帯に団扇を差す、 粋な姐さんもいれば、 長老の姿もあった。 
  路地からは太鼓の音が流れてきた。 下町っ子の心にひびく、 『東京音頭』だ。 誰もが浮き浮き顔だ。 
  リズミカルな曲に誘われて、 路地に入ってみた。 映画館の跡地が小さな公園。 ゲートには『納涼大会』。 中央の高い櫓からは四方に提灯が吊り下がる。 寄付した店の屋号が一つひとつ光を放つ。 大きな商店街だけに、 その数が多い。 
  やぐら太鼓の音が勇ましい。 男女が二組で叩く。 民謡や音頭がくり返し流れる。 
  浴衣姿の踊り手はしなやかな手つきで、 足さばきも軽やかだ。 ふだん着姿の男女は真似て踊る。 上手、 下手は関係なく、 やぐら回りを取り囲む。 円が回る。 だれもが楽しげだ。 遠巻きの見物人たちも、 浮かれて輪に加わってくる。 円が大きく二重になった。 
  子どもらは興奮ぎみに公園の周辺を駆け回る。 裸電球の屋台は納涼大会の情緒をかもしだす。 下町っ子は縁日慣れしている。
  手にした小遣いで、 あれこれ品選びしている。 幼い子を連れた父親がのぞき込む。 
  曲と太鼓のリズムが変わった。 

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