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江戸時代から、 夏の風物詩のひとつに金魚売りがある。 『きんぐょ、 金魚え〜』という抑揚のある声を聞くだけで、 涼感を満たしてくれる。 袢纏姿で、 天びん棒を担ぐ男が『きんぐょ、 金魚え〜』と江戸城に近い大名屋敷の街なかを歩き、 金魚と風車を売る。
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大名たちは立派な鯉を買い求めて山水をかたどる庭の池に放った。 豪商は武士の真似をしたがる。 豪華で色鮮やかな、 数十両もする金魚を求めて自慢する。 華美を追求する道楽となった。
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江戸川の川べり一帯は沼地で、 農耕に適さない不毛の地だ。 農民は沼に小舟を浮かべて蓮を取る。 収入は少ない。 貧農たちが金魚に目をつけて、 沼に囲いを作り、 金魚の養殖をはじめた。 金魚売は江戸川の沼池で仕入れ、 江戸の町なかで売る。
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金魚の養殖沼が増えるほど、 金魚は安価となった。 1文、 2文でも買い求めることができた。 すると、 庶民へと広まった。 着流しの浪人たちが住む深川の長屋横丁でも、 『きんぐょ、 金魚え〜』という声がひびく。 庶民にとって、 金魚を飼うことがささやかな娯楽の一つとなった。
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いまでは一等地だ。 伝統の金魚の養殖を守る、 気骨の人がいる。 生簀(いけす)のなかで、 きょうも金魚が悠々と泳ぐ。 明日はどこの庭池に移住するのだろうか。
昭和時代の半ばとなると、 下町の金魚の養殖場は変化を見せはじめた。 高度成長で、 大都市への人口流入。 道路や鉄道網が拡大すると、 金魚の養殖沼がつぶされ、 宅地となっていく。 他方で、 町から金魚売の姿が消えた。
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総武線JR駅から徒歩3分。 いまでは一等地だ。 伝統の金魚の養殖を守る、 気骨の人がいる。 生簀(いけす)のなかで、 きょうも金魚が悠々と泳ぐ。 明日はどこの庭池に移住するのだろうか。
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