【063】 水    車
  下町っ子は花が大好きだ。 狭く入りこんだ路地裏でも、 可憐な花を植える。 そして、 咲いた花は近所づきあいの話題を取る。 行きかう人たちの目を楽しませる。 
  下町っ子は駅前アーケード街の路肩も見逃さない。 プロの庭師から、 大学生、 小学生までもが、 テーマ花壇の腕前を競う。 いまやフラワーロードと名づけられた。 展示された造形花壇が延々とつづく。 
  水車がみえてきた。 水路はないけれど、 雨が降れば、 背後の情景が濡れる。 朝日が射せば、 田舎の夜明けをほうふつさせてくれる。 昼間でも、 情感豊かな気持にさせてくれる。 
  下町には潅木や庭木が少ない。 水車の側では、 一本の樹木が情緒ある風景をつくっている。 水のない水路の側で、 四季の花が咲く。 
  いまにも『カタカタコットン、 カタカタコットン』という童謡が聞こえてくるようだ。

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