【056】 惣菜屋さん
  主婦って、 大変。 毎日の食事を考えるだけでも、 疲れる。 祖父母を入れて6人家族。 下町でも、 いまどきはめずらしい大家族。 それぞれ食べ物の好みが違う。 
  だから、 大変。 夕飯の仕度を考える時間になると、 頭が痛い。
 (今日の夕食は、 何にしようかしら?)
  夕食の組合せをいろいろ考えてみるけれど、 いつも頭のなかが白紙になったように、 メニューが思い浮かばない。 それでも主婦は考えなければならない。 
  夕暮れ前になると、 つい仲見世の惣菜屋さんに足を運ぶ。 品数が豊富で、 たいへん便利な店だから。 

  祖父母にはこのキンピラ、 切干大根、 ヒジキ煮にしようかしら。 切干大根は一昨日だったしね。 
(姑に嫌みを言われそう、 毎度おなじみだね、 と)

  これだけ品物があるのに、 いつも、 いつも、 惣菜屋さんの店頭でも悩んでしまう。 
ため息が漏れてしまう。 いいわ、 煮物の盛り合わせに決めた。 
  夫の晩酌は発泡酒と枝豆でいいわ。 でも、 ちょっとさみしいから。 若鶏の唐揚げをつけてあげる。 これならば喜ぶ。 あとの料理は手抜きをしても、 ごまかせる。 

 問題はふたりの娘たち。 家事の手伝いは一切しないのに、 味付けだけはうるさいのだから。  高校生の娘は部活でお腹をすかして帰ってくる。 そのわりには食べ物にはいちいちうるさい。 てんぷらが好きだから、 春菊天、 さつまいも天、 ちくわ天で決まり。 これなら味のことはとやかく言わないし。

  長女はこのごろ会社の男性と付き合っているみたい。 帰りは遅い。 ときには深夜になる。 夕食を食べなければ、 早めに電話はよこさないと、 何度いってもかけてこない。 きょうは夕食の準備はやめておこうかしら。 こんな日にかぎって早く帰ってくる。 
「私は酢豚にしようかしら」
  娘が早く帰宅してきたら、 それを回す。 それに決めた。

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