【032】 泥んこ遊び |
夜半からの雨が昼まえに上がってきた。 虹が河川の此岸と対岸を渡す。 土手には下町の子どもらの声がもどってきた。 だれもが大きな虹だと見つめる。 半円形の鮮明な虹をくぐるように、 赤い電車がいつもの鉄橋を渡っていく。 |
||||
少女ふたりが土手を駆けて降りてきた。 追いかけっこして笑っている。 ススキの群生の陰に、 ふたりとも消えた。 途轍もないところから不意に出てきた。 鉄橋の下を潜っては戻ってくる。 |
||||
少女たちが河川敷の水溜りを見つけた。 しゃがみこむ。 水面に写るのは青空と、 動物に似た浮雲。 熊さん、 ヤギさん、 ウサギさん。 名づける少女たちの指先が、 雲と戯れはじめた。 水溜りをかき回す。 雲の形が崩れる。 「お母さんがもう迎えに来るよ」 「まだ、 だいじょうぶよ」 |
||||
仲良しのふたりはいつまでも肩を並べる。 手元に泥を集めながら、 こねて人形を造る。 巧い形にならなくても、 泥んこいじりは愉快そうだ。 |
031へ <= | 100景 TOPへ | => 033へ |