【007】 弾けないバイオリン |
「どこに行くんだい? そんなにおめかして」 「ちょっと音楽会よ、 シンフォニーヒルズさ」 「へえ、 洒落てるな。 木戸銭はいくらだい?」 「もらったチケットだから、 解からねえ」 「ちょっと、 見せてみな。 これがチケットね。 この西洋の音楽家はなんって、 楽器を弾くんだい?」 「琴や三味線じゃねえそうだ」 こんな落語が似合いそうな町である。 |
||||
駅前の小さな広場に、 『ワルツの塔』 がある。 バイオリンを弾くのはモーツアルト。 大理石の円形柱の上には、 楽器を弾く天使たちが羽ばたく。 多くは待ち合わせ場所に使われている。 ここから徒歩7分で、 巨大な建造物のシンフォニーヒルズがある。 「なんで、 寄席を作らなかったのかね。 下町には不似合いな音楽堂をこしらえて」 「錯覚だよ。 西洋文化が時代の最先端だ、 とおもったんだよ、 きっと」 「お偉い人は、 落語を聞かないのかね」 「わからねえ。 寄席を聞くのは浅草や上野だと決め付けてるんだろうよ」 「ところで、 これはだれだ?」 「きまっているだろう、 ベートーベンさ」 奏でる楽器のバイオリンをよく見てみると、 皮肉な悪戯なのか、 弓が持ち去られていた。 |
||||
日本最大級のコンサートホールで下町の文化 ・ 芸術が変わるのだろうか。 たて看板を見ると、 演歌の公演だった。 館内では、 きっと地元 『矢切の渡し』 などが熱唱されているのだろう。 |
006へ <= | 100景 TOPへ | => 008へ |