【003】 流行のない街
 下町には昔い風景や風習が残っている。 裏を返せば、 まったく進歩に鈍感な街なのだ。 昨年、 今年、 来年。 いままで通りの環境をいままでどおり水平に維持している。 

 下町に住む住民はそれに慣れきっている。 それは過去への単純な順応かもしれない。 

 住民たちはサンダル履きで商店街に出かけ、 復路は隣近所の家先で、 長々と立ち話をしている。 それが日常の風景だ。 あしたも、 きっと変わらないだろう。 
 十代の若者たちは進歩を好む。 流行から遅れつづける、 古い体質の街は好きになれない。 過去そのものは苦痛を意味する。 それが若さだ。 

 若さのもうひとつのの象徴は、 現状打破への執念だ。 古い体質を嫌う若者は、 ときに文化の大胆な破壊者になる。 
しかし、 現実はそこまでの勇気を持ち得ない。 ひたすら目先の流行を追うことで、 進歩を享受するのだ。 

 下町でも違和感のある通行人をみかけることがある。 その大半が十代だ。 少女たちは奇抜な格好で、 朝早くから原宿や六本木に出かけていく。 
 古い風土を嫌っていた若者も結婚すれば、 下町に住みたがるというから不思議な町だ。 


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