【001】 路地裏が魅力

 低い屋根の庇(ひさし)で縁取られた青空の下から、 東京下町人情が生まれる。 生きる知恵もでてくる。 この町の情緒の原点を探して歩いてみた。 

 朝の柔らかい陽が路地の狭い空間に射す。 家屋の壁面が立体的なオープンガーデンだった。 花を愛するひとには庭がなくても、 ガーデニングを楽しむ知恵があった。 
 

 色彩豊かな花はまだ露にぬれていた。 通りすがりの女性が足を止めた。 

「きれいね。 いつも楽しませてもらっているわ」
 そんなふうに花の手入れをはじめた家人に声をかけた。 ふたりはさほど親しい関係でもないらしい。 

「一輪持っていきますか」

 ごく自然な会話が交わされている。 剪定バサミの音が小気味よい。 

「これはなんていう花ですの?」

 カサブランカ、 日々草、 ポーチュラカ、 瑠璃まつり、 ジニア。 一つひとつ説明がある。 気さくな会話がつづく。 花はまさに心の潤滑油だ。 
 

 陽がさらに昇り、 花の色合いが一段と鮮明になった。 ほかの通行人が、 ベランダの花がきれいだといえば、 それを摘んできてくれる。 それは花自慢でなく、 通行人と花を共有する精神だろう。 

 気取りがない路地から、 心がなごむ空間、 下町の情感が生まれてくるようだ。 下町の心はまさしく路地に凝縮されているといえる。 
 


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