【079】   猫
  「東京の下町には猫が多いんでしょ」と訊かれた。 注意して、 観察したことはない。 ふだん道路を横切る猫とか、 屋根に寝そべる猫とか、 児童公園でプラプラしている猫とかは折々に見かける。 どのていど猫がいるのか、 見当がつかない。 

  地方には飼い犬が多く、 都会には野良猫が多い。 この差は歴然とあるようだ。 
  閑散とした田舎町だと、 番犬に役立つ。 隣家との距離があることから、 犬が吠えても、 近所への迷惑になりにくい。 東京の下町となると、 住居地は密集地帯だ。 近所付き合いは残っているが、 犬が吠えれば、 別ものだ。 苦情が舞い込む。 となると、 まわりからギクシャクしてくる。 ペット好きは座敷犬か、 猫をかわいがることになる。
 
  猫の写真を撮りに界隈(かいわい)に出かけてみた。 壁際とか、 室外機とか、 納屋の横とかに、 猫がうずくまっている。 首輪をつけた飼い猫はじっとしている。 野良猫はさっと逃げ出す。 好い被写体になる猫が見当たらない。 

  野良猫に子猫が産まれた、 五匹いると教えてくれた。 カメラを向けると、 乳を与える母親が威嚇する。 子猫はうずくまったままで、 顔の表情が撮れなかった。 ペットだけが動物ではない。 野良猫にも、 下町で生きる権利がある。 

  成長は早く、 一週間後には子猫が塀の上に上がっていた。 こちらを振り向いてくれた。 親はいつまでも、 威嚇していたけれど。

  公園の掲示板には、 『野良猫に餌をあげないでください』と張り紙がされていた。 


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