| 【０６０】 愛 犬 |
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| 夕暮れ前になると、 犬を連れたひとが下町の河岸を散歩する。 むかしも、 いまも変わらない。 でも、 何かが変わってきている。 かつて犬の散歩は男性が多かった。 女性の姿となると、 父親に連れられた少女たちだった。 主婦は夕飯の仕度とか、 大勢の子どもの洗濯とかで、 とても犬まで手が回らなかった。 余裕がなかった。 このごろは核家族で、 なおかつ一人っ子の時代だから、 婦人が犬を散歩させる姿が目立つ。 |
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| 犬の種類も変化してきた。 戦後の一時期はほとんどが雑種だった。 残飯を与えて育つ番犬が主流だった。 勇ましい犬、 大型犬が好まれた。 |
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ＴＶ時代になると、 外国のＴＶ映画に出てくるシェパードがもてはやされた。 警察犬にも登用された。 散歩するひとたちの間では、 シェパードが自慢の種だった。 |
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このごろ大型犬が土手から消えた。 座敷で飼うような、 胴長で小さな犬が風靡してきた。 尻尾はなくても、 血統書付きならば、 持てはやされる。 みるからに犬のファッション・ショーだ。 「●○ちゃん、 かわいいわね」と、 たがいに褒めあう。 可愛さがすべてを象徴する。 愛らしさが、 言葉にしない暗黙の評価になる。 |
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| 下町女性はふだんの顔、 素顔で買物にいく。 化粧と服装にはさして気を使わない。 |
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しかし、 犬を散歩させるとなると、 それは違ってくる。 犬に合わせたファッショナブルな姿でないと、 土手の散歩仲間の前に出ると、 恥ずかしくて、 妙に引け目を感じてしまう。 だから、 念入りに化粧をする。 （きょうは洋服と頭髪は決まったわ） 内心は、 散歩させる愛犬よりも「私」を観て誉めてほしいのだけれど。 |
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