【058】 駅 前 広 場
  駅前はどこも町の顔のひとつ。 下町も例外ではない。 
  私鉄駅の改札を出れば、 素顔の飾りっけがない、 雑多な雰囲気の駅前広場がある。 構図は不統一で、 無造作で、 まとまりがない。 色調も、 雑駁としている。 駅前というよりも、 野外ということばが似合う。 下町のひとは安心感、 落ち着きを感じるのだ。 

  男子高校生が「証明写真ブース」から出てきて、 商店街の方角に向かう。 バイトの履歴書の顔写真を撮っていたのだろう。 近くの路地裏の新築現場から工事人が駅前にやってきた。 作業ズボンから小銭を取り出し、 飲料自販機で、 立て続けに缶コーヒーを買う。 きっと仲間の分も頼まれたのだろう。 

  工事人は、 これから電車に乗ろうとする女性と飾りっ気がない挨拶する。 40年まえの地元小学校の同級生らしい。 

  踏切警報機が鳴っている。 あちら側、 こちら側、 ともに待つ人たちの顔には気取りがない。 遮断機が開くと、 歩く人、 自転車の人、 ともに一言、 二言、 声を交わす。 大きな看板がそれら行きかう人を見つめている。 

  下町の玄関は駅前だ。 それでも、 美しく飾ろうとしない。 だから、 電車を降りると、 すぐさま生きる人たちの息づかいが聞こえる。 

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