【039】 洋  品  屋
  洋品屋の店構えは、 全景が額縁におさまった絵画だ。 
  空間の奥行き、 立体感、 遠近感、 どこからも申し分がない。
  衣料品がバランス良くならぶ、 奥の突き当りには風格のある旦那が座る。 
  絵画のなかのモナリザの姿に似る。 
  中近東、 インド、 メキシコには類似の店があった。 狭い空間が武器で、 上手に洋品を演出する。 左右にも、 天井にも、 店頭にもボリューム感たっぷり、 迫力がある。 洋品屋の知恵は万国共通のようだ。 

  ここには戦後史の面影がある。 30年代、 40年代。 膝や袖が破れた服を着ていた、 物不足の貧しい時代があった。 庶民は皆そんな格好だったから、 恥ずかしくはなかった。 
外出着の一つもろくに買えなかった。 洋品屋にならぶ、 新品の光る服が憧れのまとだった。 羨ましく眺めていたものだ。 
  売り方はいつの時代も変わらない。 旦那は売込みの声をかけない。 洋品を求める客がくれば、 声をかけてくるからだ。 下手なお世辞も言わない。 
  客の相談には乗る。 衣料小物、 靴下、 下着。 繊維の生地から知り尽くすから、 着心地や履き心地の助言には自信がある。  間違ったものは勧めない。 
 「あんたには、 これが似合う」
心からの一言が客を喜ばす。 
  物は豊富な時代だけど、 こんな店がほしかった。 

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